シラバス Syllabus

授業名 瀬戸信用金庫冠講座 International Taxation
Course Title International Taxation
担当教員 Instructor Name 川端 康之(Yasuyuki Kawabata)
コード Couse Code TAP108_G20N
授業形態 Class Type 講義 Regular course
授業形式 Class Format
単位 Credits 2
言語 Language JP
科目区分 Course Category
学位 Degree MSc in Tax & Accountancy
開講情報 Terms / Location 2020 GSM Nagoya Spring

授業の概要 Course Overview

Misson Statementとの関係性 / Connection to our Mission Statement

授業の目的(意義) / Importance of this course

【感染症対策】本講義は、感染症対策を目的として、Zoomを利用した遠隔授業として行います。グループセッションの変更などを行う場合があります。それらについては、Google Classroomで逐次告知します。

 本講義「国際税務」は、所得税法や法人税法など租税法学の基本的分野の学習を前提に、さらに進んで租税法学を深く理解するための応用的な科目です。講義回数が限られているので、広範な国際租税法の領域のうち、所得税・法人税の国際関係規定の基本的構造を学び、主要論点の裁判例を学ぶことで、現実社会における法の適用と紛争解決の現状を法学的視点から理解することを目的としています。
 国境を越える取引に対する日本での課税を、国内租税法令の国際関係規定だけでなく租税条約等を含めて法的視点から概説します。受講生は、所得税法や法人税法、相続税法などの国内租税法を学んだ上でこの科目を受講することにより、国境を越える取引に対して我が国がどのように課税権を行使するか、制度の基本構造と基礎的な論点をよく理解することができると思います。
 OECDではここ10年近く、国際的租税回避や濫用的タックス・シェルターに対抗するため加盟国・非加盟国が統一して行動する必要があるとの観点から、いわゆるBase Erosion and Profit Shifting (BEPS)プロジェクトを推進し、プロジェクト参加国に対応を求める行動計画(Action Plans)を公表してきた。このAction Plansの一部は我が国でもすでに既存の租税法令の改正という形で国内法化されつつある。ただ、BEPSプロジェクトは全体で膨大かつ複雑な内容を扱っているため、本講義では大半を割愛し、本講義は上記のような限られた点だけに言及せざるを得ない。
 TAPの他の法律科目の授業と同様、この授業においても我が国の裁判例を中心に、法解釈の議論を行いますが、そのためには、受講生は、開講までに、条文の確認と教科書の精読など、基礎的で体系的な知識を自学(予習)しておく必要があります。授業では、講師と受講生の間で質疑応答を繰り返しながら国内租税法令・租税条約の条文や立法趣旨といった国際租税法の基本的知識を整理しつつ、それぞれの論点で裁判例を使った法解釈論の学習を行います。特に、この講義では、国内法令と租税条約を同時に並行して参照するので、問題となるルールが国内法令と租税条約のどちらのルールであるのか、租税条約のルールは国内法令のルールをどのように書き換えるのか、という国内租税法令と租税条約の複雑な法的関係に留意する必要があります。租税条約は、締約相手国次第で微妙に内容が異なるので、本講義では2017年OECDモデル租税条約を基準とし、必要に応じて実際の租税条約に言及します。
 国際租税法という広大な法領域をわずか2単位で学ぶとすれば、この法領域のごく入口部分、基本的な事柄しか学ぶことができません。したがって、本講義は国際税務を網羅的に学習することは目標とせず、受講者の今後の学習と経験のための発射台(launching site)としての役割を担っています。
 国際租税法をより深く学ぶためには、国内租税法令の学習を前提とすることは当然として、その他に、民法・会社法などの私法、民事訴訟法や民事執行法など民事手続法、課税処分の法的性質を決定している行政法、国際法(国際公法)、抵触法(国際私法)など他の法領域の学習・理解が必須であることはいうまでもありません。また、関係する外国の租税法令や私的取引法の知識があれば、さらに深く理解できるでしょう。国際税務・国際租税法は、本来、一国の租税法制の枠内で議論すべきものではなく、関係国の国内法制や条約といった関係する法のルールを総合して考察検討すべき法領域です。国際税務・国際租税法は法律科目であるということをよく認識しておいて下さい。
 講義は、Google Classroomにアップした判決文他の資料と教科書、条文を、受講生が事前に学習し「理解している」ことを前提に、所得課税の中での国際課税の基本的枠組みを講義しつつ、裁判例について質疑応答する、という手順で進めることとしています。したがって、受講生の事前学習は必須です。
 事前の学習・理解ができていないと判断した場合は、単なる知識の伝授というレベルの授業になってしまいます。どちらになるかは、あくまで受講生の事前準備に左右されます。しっかりと、事前準備をしてください。
This statutory class of “International Taxation” is an advanced course for learning Japanese tax laws, observes Japanese taxation on transactions across borders from Japanese legal viewpoints. The objective of this class is to understand application of laws in the modern real society and current status of legal conflict resolutions as well as statutory framework of international-related tax system in Japan. Students are recommended to study income, corporate or inheritance taxes in advance, followed by studying applied legal area, such as this course. With such a step-by-step learning method, you could earn deeper understandings on Japanese tax structures on international transactions with basic knowledge on leading cases and concepts. OECD has pursued so called “Base Erosion and Profit Shifting” Project to combat international tax avoidance and abusive tax shelters from viewpoint of common attitudes against such mal practices by member/non-member countries. The outcome of this project has been published as Action Plans and Japan has already legislated some of such Plans under her domestic laws. The Contents of BEPS project is, however, so much in volume and contents, thus this class would omit most of the Plans as applied area of international taxation.
As the same with other legal courses under TAP program, this course will mainly focus on the judicial cases that are contested between tax authority and taxpayers. For studying such judicial cases, students must, in advance, study elementary but systematic legal knowledge through reading of textbooks and materials. Through the classes, the instructor and students will pose questions and answer to them repeatedly, earn legal experience for legal interpretations of specific issues. In the discussion, we will both refer to domestic laws as well as international conventions (treaties) as legal authorities for specific applications of laws. Students must aware which of legal sources, domestic or international, should be applied to the facts and circumstances of the case, and how the international rules alter domestic ones. We will use OECD Model Tax Convention on Income and on Capital as benchmarks for actual tax treaties concluded by Japanese Government, and will refer, if needed, to the specific provision of the latter treaties.
Because “International Taxation” follows vast range of legal fields just within two credits of class schedules, this course will offer just an elementary, introductory discussion for such area. Thus, this course will be a kind of “launching site” for students’ future study and experiences.
For deeper understanding of International Taxation, you are required to study other area of laws, such as civil law, corporate law or other area of private laws, civil procedure, law of civil enforcements or other civil proceedings, administrative law that determines legal character of tax determinations, international law (international public law), law of conflicts (international private law), and so on. You will be more in this area, if you have some knowledge and experience on foreign laws on international transactions and taxation.

到達目標 / Achievement Goal


本授業の該当ラーニングゴール Learning Goals

*本学の教育ミッションを具現化する形で設定されています。

LG1 Critical Thinking
LG7 Global Perspective (GLP)
LG8 Tax Accounting Consulting Skills (MSc)

受講後得られる具体的スキルや知識 Learning Outcomes

本講義によって得られるスキルや知識:下記の項目などについての基本的知識を習得し理解を深める。
(1)我が国の租税法令上の国際関係規定の現況とその構造
(2)OECDモデル租税条約の現況とその構造
(3)国際租税法にかかる国内租税法令・租税条約の法解釈
(4)国内租税法令と租税条約の法的関係
(5)国際的租税回避・濫用的タックス・シェルターとそれらに対する法的対抗策の現況
(6)民商法など関連法領域との法的関係

Thru your active participation in this class, you will become able to understand, e.g.;
(1)current domestic laws on Japanese international taxation
(2)OECD Model Tax Convention on Income and Capital
(3)legal interpretations on legal issues under Japanese domestic tax laws
(4)legal relationship between domestic tax laws and International Tax Conventions
(5)current legal environments on international tax avoidance and abusive tax shelters, and legal regulations against such phenomenon
(6)legal relationship between tax laws and private laws or other relevant area of laws

SDGsとの関連性 Relevance to Sustainable Development Goals

教育手法 Teaching Method

教育手法 Teaching Method % of Course Time
インプット型 Traditional 40 %
参加者中心型 Participant-Centered Learning ケースメソッド Case Method 60 %
フィールドメソッド Field Method 0 %
合計 Total 100 %

事前学修と事後学修の内容、レポート、課題に対するフィードバック方法 Pre- and Post-Course Learning, Report, Feedback methods

 受講生は、本講義の開講までに、条文や教科書、教材用裁判例などを予習しておかなければなりません。
 授業で使用する教材用裁判例の判決文や資料は、Google Classroomにアップロードしてあります。Classroomを参照し、ダウンロードしてください。データはPDFですが、机上のパソコンなどの画面で見るのではなく、印刷して授業に持参することを推奨します。
 予習では、教科書を読みつつ関係する条文を法令集で確認し、体系的な知識を整理しておいてください。また、論点ごとに指示された裁判例の判決文を読み、事実関係(認定事実)、争点、当事者の主張及び裁判所の判断を整理し、裁判例それぞれについてケース・ブリーフを作成しておいて下さい(下記「授業前の課題」参照。様式については、講義担当者が作成した見本を参照)。ケース・ブリーフは、授業中に受講生の手元でメモ代わりに使って、議論が混乱しないようにするために必要です。授業は、原則として裁判例を中心に進めますが、租税法学は国会制定法(「法律」)をベースとする学問領域ですので、講義回によっては、教師が法制度の構造、条文の相互関係、条文の法解釈など法制度の理論的側面を講義する場合もあります。
 裁判例は1件でも教科書1冊程度の分量(文字数)があるのが普通ですから、それだけ予習に時間もかかります。
 国際税務の学習も法律科目の学習の一つですから、常に、①意義、②要件、③効果、という3つの柱を重視した整理をするとわかりやすいと思います。また、法解釈は理論構成と根拠の組み合わせであるということを意識する必要があるでしょう。国際税務の世界でも法解釈はロジックのかたまりだということを銘記しておいて下さい。
 授業時間中に、その日に学んだことの復習を目的として「事後課題」を示す場合があります。「事後課題」についてはレポートを提出する必要はありません。
グループセッションの主題(Themes for Group Sessions)
 講義は7月14日から16日までの3日間ですが、毎日午前の授業に先立ち、グループセッションを行います。その際の主題は、下記のとおりです。それぞれの主題は、各講義日の学習内容の総合あるいは総体を表現する主題です。各自、教科書や参考文献を予習し、あまり細かな知識や制度には振り回されずに、積極的に討論して下さい。法律学は論争の科学だということを忘れずに。グループセッションでは下記の論旨を準備して下さい。
①7月23日(木)「非居住者外国法人に対する課税の根拠」
②7月24日(金)「外国法に基づいて形成された法律関係に対する我が国租税法令の適用関係」
③7月25日(土)「租税条約を法的根拠として国内租税回避を否認することができるか」
④7月26日(日)「クライアントに対して国際的節税策を提案せよ」

授業前の課題(Advance Assignments)
(1)条文、教科書・関係資料の予習
(2)指定裁判例の各件についてのケース・ブリーフ作成(1件につき、A4で6頁以内)
 ケース・ブリーフを作成する裁判例は、①、②、③、⑤、⑥、⑧、⑨、⑪の8件(これらは成績評価の基礎となります)。他の裁判例についても、できるだけケース・ブリーフを作成しておくことが望ましい。
(3)グループセッションの各主題についての1,600字以内の論旨作成(計3件)
 以上の(2)と(3)を作成し(ワープロ可)、受講に際しては手元においておいて下さい。(2)と(3)は、グループセッション中や授業中は、手元のノート代わりに書き込みなどをしても構いません。
 (2)と(3)は両方とも成績評価の対象になっていますので、全講義終了時にすべてGoogle Classroomの上で提出しなければなりません。
   ◇提出期間:令和2年年7月26日(日)(授業最終日)授業終了後〜7月27日午後11時59分

【感染症対策】感染症対策のため、授業は遠隔授業によって行います。プラット・フォームはZoomを利用します。また、授業資料の配布、課題提出などはGoogle Classroomを用います。令和2年5月23日現在、すでに配布資料はGoogle Classroomにアップロードしてあります。受講しようと考えている学生は、できるだけはやくこれらの配布資料をダウンロードし、上記の指示に従って、事前課題を進めて下さい。

授業スケジュール Course Schedule

第1日(Day1)

【7月23日木曜日】第1日目は、国際租税法の法源、国内租税法との関係、所得課税(個人所得税、法人所得税)における制度枠組みを中心に学習する。
09:20-10:00 グループセッション(1)
10:00-12:00 第1講 国際課税の基礎構造・居住者・非居住者(裁判例番号①、②、③)
12:50-14:50 第2講 国内源泉所得1(④)
15:00-16:40 第3講 国内源泉所得2(⑤、AOA)

●使用するケース
※①東京高判昭59.03.14(課税権の地理的限界~オデコ大陸棚事件)行集35-3-231、第一審行集33-4-838
※②最高裁(二小)判平23.02.18(居住者~武富士贈与税事件)月報59-3-864、控訴審月報55-2-244、第一審月報55-2-265
※③最高裁(二小)判平27.07.17(外国法上の行為の本邦租税法上の性質決定~コメルツ証券名古屋事件)裁判所ウェブ・民集69-5-1253、控訴審民集69-5-1462、第一審民集69-5-1297
④東京地判昭57.06.11(事業所得~租税条約上の国際運輸所得免税)行集33-6-1283
※⑤東京高判平成28.01.28裁判所ウェブ(恒久的施設〜準備的補助的活動)、第一審裁判所ウェブ・税資265-12672(最高裁決平29.04.14)

第2日(Day2)

【7月24日金曜日】国内源泉所得の続き、二重課税排除措置、租税条約の導入。
09:20-10:00 グループセッション(2)
10:10-12:00 第4講 国内源泉所得3(⑥)
12:50-14:50 第5講 国内源泉所得4(⑦)
15:00-16:40 第6講 国内源泉所得5(⑧)

●使用するケース
※⑥東京高判平成20.03.12裁判所ウェブ・税資258-10915(業務貸付金利子〜住信レポ事件)、第一審裁判所ウェブ(最高裁(三小)決平20.10.28)
⑦最高裁(一小)判平16.06.24(業務使用料〜シルバー精工事件)月報51-6-1654、控訴審月報45-8-1553、第一審行集43-10-1336
※⑧最高裁(三小)判平17.01.25(アプライドSO事件)民集59-1-64・月報51-10-2696、控訴審月報51-10-2696、第一審月報51-10-2741

第3日(Day3)

【7月25日土曜日】租税条約の続き、国際的租税回避とその統制策
09:20-10:00 グループセッション(3)
10:00-12:10 第7講 二重課税排除措置(⑨)
13:10-14:50 第8講 租税条約(事業所得、AOA、⑤)
14:50-16:40 第9講 租税条約・国際的租税回避(⑩⑪)

●使用するケース
※⑨最高裁(二小)判平17.12.19(大和銀行外税控除枠濫用事件)民集59-10-2964、控訴審民集59-10-3165、第一審民集59-10-2993
⑤東京高判平成28.01.28裁判所ウェブ(恒久的施設〜準備的補助的活動)、第一審裁判所ウェブ・税資265-12672(最高裁決平29.04.14)
⑩東京高判平19.06.28(条約濫用〜日本ガイダント事件)判タ1275-127、第一審判タ1266-185(最高裁(一小)決平20.06.05)
⑪東京高判平26.10.29(条約濫用〜スワップ契約事件)税資264-12555、第一審税資263-12327(最高裁決平28.06.10)
⑪0最高裁(二小)判平19.09.28(TH子会社損失合算可否事件) 民集61-6-2486、控訴審民集61-6-2531・判タ1213-129、第一審民集61-6-2515・税資254-9554

第4日(Day4)

【7月26日日曜日】
09:20-10:00 グループセッション(4)
10:00-12:10 第10講 国際的租税回避(⑫)
13:10-16:40 第11講 国際的租税回避(⑬⑭、その他)

●使用するケース
⑫最高裁(一小)判平21.10.29(THグラクソ事件)民集63-8-1881、控訴審民集63-8-1979、第一審民集63-8-1954
⑬高松高判平18.10.13(TP今治造船事件)裁判所ウェブ・月報54-4-875、第一審月報51-9-2395(最高裁(三小)決平19.04.10)
⑭東京高判平20.10.30(TPアドビ社事件)税資258-11061、第一審月報54-8-1652

第5日(Day5)



第6日(Day6)



第7日(Day7)



成績評価方法 Evaluation Criteria

*成績は下記該当項目を基に決定されます。
*クラス貢献度合計はコールドコールと授業内での挙手発言の合算値です。
講師用内規準拠 Method of Assessment Weights
コールドコール Cold Call 20 %
授業内での挙手発言 Class Contribution 15 %
クラス貢献度合計 Class Contribution Total 35 %
予習レポート Preparation Report 20 %
小テスト Quizzes / Tests 0 %
シミュレーション成績 Simulation 0 %
ケース試験 Case Exam 0 %
最終レポート Final Report 45 %
期末試験 Final Exam 0 %
参加者による相互評価 Peer Assessment 0 %
合計 Total 100 %

評価の留意事項 Notes on Evaluation Criteria

・予習に際して裁判例は、それぞれの事案について下級審から上級審まですべての審級の判決・決定文を熟読しておいて下さい。いうまでもなく、地裁・高裁においては事実問題と法律問題の双方が、最高裁においては(高裁で確定した認定事実を前提に)法律問題が、それぞれ争われています。また、同じ当事者であっても各審級で異なる主張をすることもよく見られることなので、上級審の判断で確定している事案でも、授業では時系列に沿って下級審から順次検討します(例:地裁→高裁→最高裁)。ケース・ブリーフを作成する際も、各審級ごとに整理する必要があることは当然です(ひとつの事件全体(地裁〜上級審)でケース・ブリーフはA4で6頁以内)。
・裁判例の法的分析には、きちっとした「方法」があります。それをよく身に着けてから、裁判例を勉強するようにしてください。スポーツや芸術と同じように基礎、基本、フォームが身につかないと、我流で判決文を読んでいても、さっぱり理解できないでしょう。
・授業への貢献度の評価は授業中の発言が基本となりますが、発言内容を重視するので、単なる発言回数だけでは評価しません。したがって、思いつきの読書感想文や、世間話のような意味のない発言・的外れな発言は何回発言しても評価されません。一方、実務上の経験に基づく事例紹介などは高く評価します。
・クラス又はグループのファシリテーション力も貢献度を評価する上で考慮します。建設的な批判は大いに歓迎しますが、他者を萎縮させるような言動や威圧的な態度は大きな減点対象とします。

使用ケース一覧 List of Cases

    ケースは使用しません。

教科書 Textbook

  • 増井良啓・宮崎裕子「国際租税法(第4版)」東京大学出版会(2019)978-4130323932
  • 金子宏「租税法(第23版)」弘文堂(2019)978-4335315411
  • 川端康之「ビトカーの濫用的タックス・シェルター論−Crane理論・事業目的」税務大学校論叢40周年記念論文集(2008)

参考文献・資料 Additional Readings and Resource

【感染症対策① 講義の方法】
講義は、感染症対策のために、大学所定のネット講義施設を利用したネット講義の形式で行います。受講希望者はネット講義への対応を準備しておいてください。ネット講義の場合は、他の講義と同じアプリケーション・サーバ(Zoomを予定)を利用します。

【感染症対策② 講義で利用する教科書の入手方法】
講義では、増井先生・宮崎先生共著の教科書を利用しますが、感染症対策のため、入手にあたっては他の科目の教科書と併せてネット書店などを利用して入手し、感染症に対する注意を怠らないようにしてください。また、ネット販売の急増により、配送時間に遅延が見られるようですので、入手時期に注意してください。
 条文は教科書よりはるかに重要です。ぎょうせいや財経詳報社などの専門出版社が刊行する「税務六法」が最適ですが、それらでなくても、総務省ウェブサイト「電子政府の総合窓口」の中の現行法令データベースや、第一法規出版の現行法規データベース、などオンラインデータベースでも条文は入手できます。所得税法の法律自体の条文は必ず手元において下さい。場合によって、所得税法施行令・施行規則、所得税基本通達なども参照することがあります。

【講義で使用する裁判例】
講義で使用する裁判例および資料はGoogle Classroomで配布します。大量の資料であるので、資料がGoogle Classroomで公開されたら、すみやかに入手し、事前学習と課題を進めておくこと。これらの資料は、通常の大学院前期課程における国際租税法(2単位)で利用する程度の分量であるので、とくに多いわけではなく、本講義の大学院授業としての水準を維持するために必要である。

①東京高判昭59.03.14(課税権の地理的限界~オデコ大陸棚事件)行集35-3-231、第一審行集33-4-838
②最高裁(二小)判平23.02.18(居住者~武富士贈与税事件)月報59-3-864、控訴審月報55-2-244、第一審月報55-2-265
③最高裁(二小)判平27.07.17(外国法上の行為の本邦租税法上の性質決定~コメルツ証券名古屋事件)裁判所ウェブ・民集69-5-1253、控訴審民集69-5-1462、第一審民集69-5-1297
④東京地判昭57.06.11(事業所得~租税条約上の国際運輸所得免税)行集33-6-1283
⑤東京高判平成28.01.28裁判所ウェブ(恒久的施設〜準備的補助的活動)、第一審裁判所ウェブ・税資265-12672(最高裁決平29.04.14)
⑥東京高判平成20.03.12裁判所ウェブ・税資258-10915(業務貸付金利子〜住信レポ事件)、第一審裁判所ウェブ(最高裁(三小)決平20.10.28)
⑦最高裁(一小)判平16.06.24(業務使用料〜シルバー精工事件)月報51-6-1654、控訴審月報45-8-1553、第一審行集43-10-1336
⑧最高裁(三小)判平17.01.25(アプライドSO事件)民集59-1-64・月報51-10-2696、控訴審月報51-10-2696、第一審月報51-10-2741
⑨最高裁(二小)判平17.12.19(大和銀行外税控除事件)民集59-10-2964、控訴審民集59-10-3165、第一審民集59-10-2993
⑩東京高判平19.06.28(条約濫用〜日本ガイダント事件)判タ1275-127、第一審判タ1266-185(最高裁(一小)決平20.06.05)
⑪東京高判平26.10.29(条約濫用〜スワップ契約事件)税資264-12555、第一審税資263-12327(最高裁決平28.06.10)
⑪0最高裁(二小)判平19.09.28(TH子会社損失合算可否事件) 民集61-6-2486、控訴審民集61-6-2531・判タ1213-129、第一審民集61-6-2515・税資254-9554
⑫最高裁(一小)判平21.10.29(THグラクソ事件)民集63-8-1881、控訴審民集63-8-1979、第一審民集63-8-1954
⑬高松高判平18.10.13(TP今治造船事件)裁判所ウェブ・月報54-4-875、第一審月報51-9-2395(最高裁(三小)決平19.04.10)
⑭東京高判平20.10.30(TPアドビ社事件)税資258-11061、第一審月報54-8-1652

【参考文献】
・井上康一他編著「国際取引と海外進出の税務」(税務研究会)
・井上康一・仲谷栄一郎『租税条約と国内租税法の交錯(第2版)』(商事法務)
・木村弘之亮『国際税法』(成文堂)
・水野忠恒『租税法大系(第2版)』(中央経済社)
・水野忠恒『国際課税の制度と理論:国際租税法の基礎的考察』(有斐閣)
・金子宏他編『ケースブック租税法(第5版)』(弘文堂)
・中里実他編『租税判例百選(第6版)』(有斐閣)
・Michael J. Graetz, Foundations of International Income Taxation (Foundation Press)
・OECD, 2017 Model Tax Convention on Income and on Capital (Condensed Version)(OECD)
・Klaus Vogel, et al., Klaus Vogel on Double Taxation Conventions 2 vols. (Wolters Kluwer)
・Philip Baker, Double Taxation Conventions loose-leaf service (Sweet & Maxwell)
・OECD, Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations 2017 (OECD)
・大蔵財務協会編『平成26年版改正税法のすべて』670頁-844頁「国際課税関係の改正」(大蔵財務協会)
・福山博隆「外国法人及び非居住者の課税その他国際的な側面に関する税制の改正」税経通信17巻6号(1962年5月臨時増刊号)101頁-129頁(税務経理協会)

授業調査に対するコメント Comment on Course Evaluation

平成30年7月14日乃至16日におこなった本講義についての授業アンケートの中で「この授業の改善点について」で指摘が多かったのは、概ね、

①受講生に発表の機会がない
②アサイメント(事前課題)が多すぎて、すべてを消化することができなかった
③2と関連して、授業の進捗が速すぎ、理解できないままに進んだ
の3点に集約できる。

<①について>
 事前のGoogle Classroomでも指摘したように、法律学の勉学のための授業のスタイルとしては、大別して、ソクラテス・メソッド(ケース・メソッド)とレクチャリングに二分することができる。我が国では、従来法学部では主にレクチャリングによって講義が進み、近年の法科大学院では創設当初からソクラテス・メソッドが用いられている。
 それに対して、法制度の先進国である欧州諸国や英国、米国では、欧州諸国ではレクチャリング重視、英国・米国ではソクラテス・メソッド重視、といってよい状況である。しかし、これは、地域によって教育方法が異なるのではなく、その地域の法制度が制定法による大陸法、判例法による英米法、と歴史的に別個の発展を遂げてきたからである。つまり、大陸法の国々は、議会で制定法を制定しそれを執行するという方法で国の統治が行われ、裁判もまた制定法の条文の解釈、というスタイルで発展してきた。また、制定法は、それぞれの分野について必要なルールが人為的に事前に考案されているので、ルールの数も膨大で複雑な体系となっている。それに比べて英米法は当初、裁判所の裁判(判決・決定)で示されたルールが、議会が成立する以前から国を規律し、いわば判決文の中にルールが埋もれている、という状況で法が発達した。もっとも、英国でも市民革命以降は議会が存在し、利害関係が錯綜する現代社会においては、議会が制定法を制定する、ということが多くなっている。
 このような歴史的背景を背負って西欧の法制度は存在するので、英国や主に英国の法制度を継受した米国では、議会制定法と並んであるいはそれ以前に裁判所の法形成機能が重視され、まさに判例法と呼ぶべきルールが成長してきている。
 このため、欧州大陸諸国では、法学を学ぶといえば、制定法を学ぶ、ことであり、数多くの複雑な制定法上のルールを理解するには、体系を重視し法令上用いられる抽象的概念に慣れ親しむことが必要であると考えられ、法学教育においてはもっぱら講師が体系的内容を講義する、というスタイル、つまりレクチャリングが用いられる。
 それに対して、英国や米国などの英米法域に属する国においては、従来から判例法で法が形成されてきた法分野(たとえば、財産法や契約法〜我が国でいえば、民法典の中核的部分)については、判例が示したルールが何であるのかを理解するために判決文を熟読し、その法的意味を咀嚼するという作業が必要である。そのため、これらの法分野の講義では、おおむねケース・メソッド(裁判例を素材として授業を進める)、講師が受講生に質問し受講生がそれに答えるという形で判決文の含意を追求する(つまり、判決文に隠れたルールを摘出する)つまり、ソクラテス・メソッドが主に用いられている。英国も米国も消費者保護を中心に従来の判例法だけではなく、事前規制の意味合いもあって制定法で権利関係を整理しようという動きはあるが、それも含めて、いまなおこれらの分野の教育方法はケース・メソッドであるといってよいであろう。
 しかし、英国でも米国でも、経済統制法規や刑事法、租税法などは制定法によって法的根拠を与えるというスタイルが古くから採られてきた。本講義の対象となる租税法も、近代的な意味での租税は、米国のみならず英国においてさえ、当初から議会制定法を根拠に租税を課する、というスタイルがとられていたのであって、判例法だけを根拠に租税を課するなどということが行われたことはない(判例法が制定法を補充する)。
 そのため、租税法令はその当初から複雑で膨大な数のルールによって形成されており、租税法を学ぶということは、すなわちそれらの複雑で膨大な数のルールとその法的意味(つまり、法解釈)に通ずるということであって、その体系を把握するために、ケース・メソッドではなくレクチャリングが用いられている。本講義の開講前のストリームでも書いたように、担当講師(川端康之)が在外研究を経験した米国Yale Law Schoolでは、上記の財産法や契約法の授業はCommon Law Classと呼び、コモン・ロー(普通法、つまり裁判所が形成した法)についてはソクラテス・メソッド、ケース・メソッドによって講義が行われるのに対して、連邦所得税や連邦法人税、米国国際租税法といった議会制定法がルールの根幹である科目はもっぱらレクチャリングによって講義を進めるStatutory Classと呼ばれていた(事実、これらの科目はレクチャリングによって講義が行われていた)。
 そういうわけで、法学の学習は、ケース・メソッド一辺倒でもなく、レクチャリング一辺倒でもなく、法分野によって使い分ける、というのがYale Law Schoolのスタイルであった。
 本講義の担当講師である川端も、このようなイェールの考え方に強く共鳴している。なぜなら、会社法や、租税法、独禁法、知的財産法といった分野では、目の前に膨大な数の条文があり、それらの条文が複雑につながっているのに、それを一切無視して、場当たり的な裁判例ばかりを「勉強」したとしても、それは決してその法分野を俯瞰的に理解したことにはならず、むしろ、新聞ネタのように耳目を集めた事件を知るだけに止まる、からである。もちろん、条文の存在、その内容、解釈上の論点、解釈学説、学習が進めば、次はいうまでもなく裁判例を学ぶことで具体的に解釈上の論点と実社会のつながりを知り、学説と判例の対比を行うことで、学説の含蓄、判例の紛争解決機能、といった法律家にとって重要な価値、側面を深く知ることができるようになる。したがって、判例の勉強は、タイミングが重要である、ということである。受講生の講義前の理解水準をまったく無視して、個別事案に拘泥し、アドホックに、何の脈絡もない数多くの裁判例を、意味もわからず「判例」と称してただ読むだけ、では法学の思考力は会得できないであろう。
 我が国では、2000年代初頭の法科大学院構想の当時、米国のロー・スクールではケース・メソッド(つまり、ソクラテス・メソッド)で講義が行われており、新たな法科大学院でもそのようにしなければならない、などという短絡的な論調が幅を利かせたために、本来レクチャリングでよい制定法の講義がケース・メソッドによって歪められ、学生の理解が低下した、というのが川端の実感である。
 このような観点から、本講義はもっぱらレクチャリングのスタイルを重視した。②で指摘されているように判決文の熟読というアサイメントが多すぎてそこに目を奪われ、目の前で進んでいる授業がケース・メソッドかレクチャリングか、よくわからないままに講義時間が進んでいってしまったのではないか、と思う。
 レクチャリングで体系的知識を理解しなければならない授業で、学生の発表の機会がないことは、ある意味当然である。体系的知識の理解なしに思いつきで発表したところで、所詮は時間の無駄に終わることは大いに予想できる。また、思いつきの発言を学生同士が交わしても、それは思いつきの域を脱することはできず、基本的な知識の理解と判例学説の思考を通じて、新たな視点、発言すべき意見、に到達できると思う。ただ、喋っていればいい、わけではない。
 担当講師である川端が、3日間の朝のグループ・セッションを傍聴し、あるいは授業中に学生にコールド・コールで問いを投げかけたことに対する学生の反応や挙手による発言を聞いていて感じたことは、端的に言って、条文を読んでいない、ということであった。租税法は、租税法律主義を持ち出すまでもなく、条文ありき、条文でどういっているか、が絶対的である。なので、予習では税務六法に穴が開くほど条文を引いて予習すべきであった(六法を持っていない受講生もいたようであるが、法律学の学習に条文がないなど、基本的前提条件を欠いている)。

 以上のように、今回川端が担当した講義「国際税務」は、租税法の学習スタイルとして当然のレクチャリングを重視しつつ、講義を行った。したがって、学生の発表は、他の講義とは異なり、本講義では予定しておらず、発表のタイミングがなかった、ということである。

<②について>
 端的にいって、アサイメント(事前課題)が多すぎて、すべてを消化することができなかった、というのは、事前の予習の時間がなかったからである。また、川端も事務局から、アサイメントの資料を受講生に公開するのが授業の2週間前とは知らされていなかったので、授業の2週間ほど前になって、事務局から、受講希望者から事前予習ができない、と苦情が来ていると聞いて、素直に言って、驚いた。4月の新学期には公表されることを前提に3月にはすでにGoogle Classroomに資料をアップロードしていたのに・・・と。2単位の単位を認定するために受講生が行うべきことをこなすには、2週間では短すぎる(ちなみに、学校教育法では90分の授業1回について、2時間の予習が必要、と定められている。今回のこの講義は、ざっくりいって25時間程度であるので、1限90分換算でおよそ16コマ、従って、予習に必要な時間はおよそ32時間、2週間で1日平均2.3時間程度が単位認定のために法令で求められている予習時間(いわば必要最低限の予習時間)である)。初学者がこの程度の予習時間で足りるとも思えないし、慣れもあろうから、当初はもっと時間が必要なはずである。
 また、他大学の大学院では、たとえば春学期2単位90分15回(+定期試験1回)の授業で、本講義とほぼ同じ内容の授業を行っているところもある。そのうち数校については川端が担当している。受講生は気づいているかもしれないが、事前のアサイメントとして選択・公表した裁判例は14件である。つまり、15回の授業を前提に、それに収まる数で裁判例を選択している、ということである。もちろん、国際租税法・国際税務といっても、ある特定の分野だけを講義することも可能ではあるが、それでは、世間で一般的に「国際租税法」や「国際税務」と呼ばれている分野を総称することにはならず、「国際租税法」「国際税務」の中の、たとえば、移転価格という特定分野だけを学んだ、外国税額控除だけを学んだ、としかいえない。また、国際租税法全体の体系的理解のないままに、そのような特定分野だけを学ぶことができるとも思われない。
 そこで本講義では、他大学大学院で行われている国際租税法、国際税務の講義内容を標準とし、講義時間から逆算して扱うべき裁判例の数と具体的裁判例を選択した、というのが、アサイメントで指定した14件の選択の理由である。
 他大学大学院では、概ね週1回の講義を15回繰り返し、2単位の単位習得に至る。週1回の講義であるため、先週の講義と今週の講義の間に受講生が復習したり予習したり、あるいは、ここで特に重要なのは、先週の講義で足りなかったことを追加で調べたりする、ことが可能である、ということである。川端も、他大学大学院での講義では、これら14件の裁判例を講義(レクチャリング!)する際に、関連裁判例を紹介し、「次週までに読んでおくように」と指示することも多く、そういった講義で受講生は、結局20数件の裁判例を読むことになる。
 それに照らせば、本講義で14件の裁判例は決して数が多すぎる、とはいえず、本講義の中盤以降そうなってしまったような「事案に入りすぎる」ことがなければ、14件の裁判例は本講義の時間配分で十分処理できたはずである(ただし、そのためには、コールドコールや挙手発言で、判決文の熟読を通して受講生が正確に事案の詳細を知っており、的確に論点を指摘し、講師からの質問に対してロジックとして先回りするようなリアクションがあってこそ、である)。しかし、個別知識の説明(つまり、教科書を熟読していないから)や事実関係の再確認に手間取って、裁判例の積み残しがでた、と理解できる。

 このように、14件の裁判例を2単位講義で扱う、ということ自体は珍しいものではなく、3日間の集中で講義を受講するのであれば、2週間という短時間では予習は難しい。今後同じような講義スタイルを求められる際には、レクチャリングをより全面に出し、扱う裁判例は10件以内に抑えて、ゆっくり進めるようにしたい。

 余談ながら、担当講師である川端は、国際租税法、国際税務、を何の前提条件もなく2単位で講義することは困難である、と考えている。いわゆる民法は民1から民4まで、民法典の編纂に応じて、総則、物権・担保物権、債権(総論・契約・不法行為・事務管理)、親族相続、と4分し、それぞれが「4」単位科目で講義されるのが伝統的なスタイルである(近時は、セメスター制度の導入により、4単位を2分割して2単位2科目にしている例もある)。会社法も4単位である。国際租税法も、この講義ではあまり強調しなかったが、①国内租税法令上の国際関係規定という意味での国際租税法と、②租税条約を中心とする国際法上の租税関係規定という意味での国際租税法、に大別される。もちろん、条約は国内法の修正原理であるので、国内法を知らずして条約だけを学ぶことは、租税の世界に限っていえば、ほとんどありえない。また、①の国内租税法令といっても所得税から地方税まで膨大な分野があり、せめてプロトタイプとしての所得課税だけをとりあげるとしても所得税と法人税というかなり毛色の違った分野である。①だけでも2単位では足りないぐらいである。率直にいえば、川端からすると、国内法と条約の全体を入れた「国際租税法」は12単位〜16単位、つまり6科目から8科目で論じる必要がある、と考えている。

 そういうわけで、立法趣旨を理解し条文をきちっと熟読することでテクニカルな知識を得て初めて、学生の発表は可能になる、というのが川端の所見である。
 なお、平成31年度については、上記の意見を参考に、ケース・ブリーフを作成すべき裁判例を8件に限定することとした。

<③について>
 1と2を読めばわかると思うが、要は、2単位という狭い枠組みで受講生の発言と受講生間の論争をケース・メソッドによって求めつつ、広大な国際税務の分野を、大学院前期課程レベルの水準で講義する、というのはほとんど絵空事だということがわかる。知識重視なら、徹底的にレクチャリングに絞り込み膨大な知識を会得することも可能であろうし、論争重視なら、このトピックだけ、と限定した講義内容にすることも可能である(ただし、その場合には、講義名が「国際税務」ではそぐわない。トピックを冠した科目名称である必要がある。なぜなら、現在の科目名「国際税務」では、少なくとも第三者は、国際税務全般を学んだ、と思ってしまうからである)。
 そのような状態で、いわば挑戦的に、できるだけ最後に「近い」ところまで辿り着こうとしたのが、今回の講義であったわけである。なので、スピードが極めて速いのは担当講師も十二分に承知の上のことであった。
深謝。

(2)改善方法
 上記の3つの指摘事項に対する改善方法としては、次のようなものがあると考えている。

①受講生に発表の機会を与える(おそらくは、受講生同士の討論)
 このためには、受講生は、事前に、かなり詳細に正確な理解で条文を把握し、判例学説も把握していなければなりません。講義の時期にもよるが、たとえば今年と同じ時期(7月中旬)ということであれば、受講生は4月ぐらいから予習を始めていないと間に合わない。3日間の講義が一旦始まると怒涛のように前に進んでいくので、途中で追いつく暇はない、事態に陥る。
 さらに、「国際税務」を受講する前提として、名古屋商科大学大学院で開講されている他の租税法関係科目はすべて履修しておく必要がある。他の科目は、すべて、国内法だけを扱っている。それに対して、この「国際税務」は国内法はいうまでもなく、租税条約も、場合によっては他国の国内租税法令も、扱う。
 なので、端的にいえば、国際税務を履修する上で、国内法のうちの国際関係規定についてもすでに学習済み、というのが望ましい(上述の、2単位か否か、の議論参照)。
 こういうふうに受講生の準備が整っていれば、「国際税務」を標榜するこの科目も、授業時間中に学生同士の討論も可能であろう(討論といっても思いつきの意見の言い合い、ではなく、判例学説に基づく論争、である)。
 しかし、現実的には、これらのことは受講生に要求することは困難であると想像している(川端の本務校である横浜国立大学大学院の前期課程でも、あるいは法科大学院においてさえ、このようなことが実現したことは、ない)。なので、1の受講生の発言の機会、を実現するには、講義内容を減らすか、講義で使う資料を減らして、講義で出てくる情報量を減らし、講師の説明時間を削減し、学生の発言の時間を確保する、というのが現実的であろう。ただし、思いつきの発言は、授業とは関係がないので、困る。

②アサイメントが多すぎる
 改善策として端的なのは、取り上げる裁判例を減らす、ことである。少なくとも、学生に熟読を求め、ケース・ホールディングを事前によく考えて授業に望むよう求める裁判例をへらす、ということであろう。授業中に教師が紹介し知識としてレクチャリングする裁判例は多くてもかまわない。ただし、これは、授業を、ケース・メソッドからレクチャリングに大きく傾ける。体系的知識の教授を維持しつつケース・メソッドの手法によって、余裕をもって学生同士が論争する、には、2単位25時間では圧倒的に少ないのである。
 したがって、アサイメントを減らすよりも、アサイメントに対応する事前の時間(リード・タイム)を確保したほうが現実的である。
 単純にアサイメントを減らすと、学生の事前理解の幅も狭くなるきらいがありそうである。アサイメントの量は、レクチャリングかケース・メソッドかという根幹にかかわる。

③授業の進捗が速すぎる
 これは、アサイメント〜裁判例、を中心に授業で処理する情報量が多すぎる、ということであろう。アサイメントを減らし、教科書ベースのレクチャリングにすれば、25時間あれば、教科書の3分の2ぐらいはこなせそうである。ただし、それでは前期課程レベルの授業か、という大きな問題にぶちあたる。
 2とも綿密につながっているが、授業のために準備する予習の量、あるいは復習の量は、日本の大学院の一般的な学生は圧倒的に少ない。法科大学院でもそうである。なので、解決策として有力なのは、学生にしっかり勉強してもらう、しかなさそうである。あるいは、今回のような、3日間ぶっつづけで授業をし続けるよりも、週末土日を2セットとか、あるいは土曜日だけあるいは日曜日だけを4セットとか、進捗した授業内容を学生自身が振り返り足りないところを補充して次の授業に臨むことができるような時間配置のほうが好ましい。他大学大学院・学部ではセメスター制度を採用していても、多くて90分授業週2回程度しかないので、学生は振り返りの時間を持っているわけである(上述のように、学校教育法では1コマの授業あたり2時間の自習を義務付けている)。
 ちなみに、今回の講義に際して、受講生はどれくらい資料を読んだであろうか? 他大学大学院の例でいえば、1回の授業のために論文を5本から10本ぐらい読むのは当たり前であるし、裁判例も1回の授業のために数件読む、というのが普通である。教科書も、指定教科書以外に参考資料として同じ分野の資料をいくつか読み分けなければならない。
 とくに、経済学、経営学の専攻の院生と違って、実定法の院生は、判例と学説が鍵であるので、経済学や経営学の学生から見ると、毎回の授業のために1冊ずつ書籍を読んでいる、と笑われるくらい、読書量が多い。裁判例なんて、百数十ページの判決文を読んでも所詮は1件の事案に過ぎない。それが、関連裁判例も含めると数件はいつもあるわけで。租税法の世界は、かつては研究者も少なく論文数も少なかったが、ここ30年余りで研究者も倍増し、毎月公表される雑誌論文も飛躍的に数が増えた。なので、民法や刑法と並んで膨大な情報を処理しないと、学習できない分野になってしまったわけだ。
 そういった事前の情報をしっかり頭に叩き込んでいることを前提にする大学院での授業は、ざっくりいえば、学部1年間の授業を2ヶ月で進む、という感じである。進捗も速く、情報量も膨大。
 余談ではあるが、前述の在外研究当時、Yale Law Schoolでのアサイメントは、毎回の授業ごとにおよそ500ページ程度(判決文、議会議事録、論文など)。半年間の2単位授業で、概ね数千ページを読まされる。そんな世界ですね。

(3)その他
 授業アンケート中のQで、Q1、Q5のスコアが3点台で悪評価である。Q1はシラバス記載の学修目標、Q5はクラス討論で、いずれも、Q10で指摘されている受講生のコメントと符合している。要は、シラバスではアサイメントが膨大に出され、とてもこなせなかったので授業が停滞し、授業の進捗スピードは極めて速く学生討論の時間もなく、結果として学修目標が到達できたかどうかは怪しい、と考えている受講生が多い、と理解するのがよいのか、と考えている。
 いちばん安直な対応は、取り上げる裁判例を減らし、体系的知識の理解を求めず、トピックに思いつきで発言することを奨励し、深く考えずに発言するよう誘導することであるが、そのようなことが許されるわけではなかろう。

まとめ
 受講生の貴重なアンケートは、示唆に富むものである。悩ましいのは、他大学大学院ではほぼ達成できていることがこの講義ではなぜ難しいのか、米国でさえレクチャリングで行われる講義がなぜケース・メソッドでなければならないのか、という根本的な問題と深くつながっていると思われることである。今後の課題としたい。

担当教員のプロフィール About the Instructor 

川端康之(Kawabata Yasuyuki)
2018年春学期より、本学会計ファイナンス研究科非常勤講師。
1959年大阪府生。1982年関西大学法学部卒、同大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得退学(公法学専攻)。1990年関西大学商学部専任講師、同助教授を経て1998年横浜国立大学大学院国際経済法学研究科助教授。現在、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授。
取得学位:法学修士(関西大学)、商学修士(関西大学)。
研究分野:公法学、租税法学、会計学
研究テーマ:租税法と私法、国家間における税源配賦、所得課税におけるタイミング
所属学会:International Fiscal Association, European Association of Tax Law Professors, 租税法学会、日本税法学会ほか

主な業績
分担執筆 R.Hein and R.Russo, Ed., Co-operative Compliance and International Compliance Programme (2020).
分担執筆 University of Seoul and Australian National University, Ed., New Approaches to Tax Welfare in Australia and Korea- Australian National University - University of Seoul Invitation Workshop (2018).
分担執筆 M.Basilavecchia, Ed., Tax Implication of Natural Disasters and Pollution (2015).
川端康之監訳 OECD『2010年版OECDモデル租税条約』 (2011).
分担執筆 Andrea Amatucci, Ed., International Tax Law (2006).
川端康之監訳 Richard L.Doernberg『アメリカ国際租税法(第3版)』 (2001).
分担執筆 Klaus Vogel, Ed., Interpretation of Tax Law and Treaties and Transfer Pricing (1998)、ほか








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